不動産を売却するときに注意する点 その1 ―囲い込みに注意する―

不動産の売却を検討している人の多くは物件を「高く売りたい」「早く売りたい」と考えているのではないでしょうか?しかし、売却を依頼した不動産仲介会社が「囲い込み」をしている場合、売主側が大きな損失を被ってしまう可能性があります。そのため、不動産売却をする際には不動産業界で行われている「囲い込み」についても知っておく必要があるでしょう。

そこで今回は、不動産売却の囲い込みについて解説します。不動産仲介会社が囲い込みする理由や囲い込みにあわないための対策についても解説しますので、これから不動産売却を検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。

不動産売却の「囲い込み」とは?

不動産売却の「囲い込み」とは、不動産仲介会社が売却を依頼された物件について他社からの問い合わせや申し込みなどを意図的に断って、自社のみで取引を完結させることをいいます。たとえば、他の不動産仲介会社から「〇〇の物件を買いたい人がいます」と問い合わせがあった際に、本当は申し込みが入っていないにも関わらず「既に申し込みが入っています」などと嘘をついて他社を介入させない行為です。

ここでは、なぜ不動産仲介会社が囲い込みを行うのか、そして囲い込みをされると売主がどのような不利益を被るのかについて解説します。

囲い込みをする仲介業者の狙いは「両手取引」

不動産仲介会社が囲い込みをする理由は、売主と買主の両方から仲介手数料を受け取るためです。他社の紹介により買主が見つかった場合、売主と媒介契約を締結した不動産仲介会社は売主からのみ仲介手数料を受け取ることができます。しかし、買主を自社で見つけることができれば売主・買主双方から仲介手数料を受け取れるので、売上を2倍にすることが可能になるのです。したがって、囲い込みは不動産仲介会社の利益のために行われているといえるでしょう。

不動産業界では、売主と買主に介在する不動産仲介会社が1社である仲介を「両手取引」、売主・買主どちらか一方のみ仲介する場合を「片手取引」と呼んでいます。このような両手取引と片手取引といった仲介手数料の仕組みが、囲い込みを誘発しているといっても過言ではありません。不動産仲介会社からすれば両手取引である方が1回の契約で受け取れる報酬が多くなりやすいので、効率よく売上を上げることができます。そのため、物件調査や書類作成など手間のかかる契約を片手取引で数多くこなすよりも、売主の意向を無視して囲い込みをしてでも両手取引により売上を向上させたいと考える不動産仲介会社が存在しているのです。

ただし、両手取引自体は違法ではありません。両手取引はあくまで「媒介」であり、不動産仲介会社が売主(または買主)本人に代わって意思表示をするわけではないため、民法で禁止されている「双方代理」とは異なるという見解がされているからです。とはいえ、「高く売りたい」売主と「安く買いたい」買主を1社のみが仲介する場合、片方の利益に傾いてしまうともう片方の利益を損なってしまう可能性は考えられます。宅建業法で「信義誠実の原則」が規定されているように、不動産仲介会社には中立の立場で公平な仲介をする姿勢が求められるでしょう。

囲い込みをされてしまうとどうなる?

もし売却を依頼した不動産仲介会社が「囲い込み」をしている場合、売主はどのような不利益を被ってしまう可能性があるのでしょうか?囲い込みにより懸念されるのは、売却までに時間がかかることや安易に値下げを要求されることです。

不動産仲介会社の営業マンは、買い手となる顧客が求めている物件を探すためにレインズ(不動産会社が物件情報を共有するシステム)に新規登録された物件を毎日のようにチェックしています。そのため、「囲い込み」により他社からの紹介を完全にシャットアウトされてしまうと、早く売れるチャンスを潰されてしまうことになるのです。

囲い込みにより買い手が見つからないまま時間が過ぎると、両手取引にこだわる不動産仲介会社は値下げを提案します。本来であれば、成約価格によって仲介手数料が変動することから、高い金額で成約できた方が不動産仲介会社にとっても良いはずです。しかし、あくまで両手取引を目的にしている場合は、片手取引になるよりも値下げする方が売上は大きいと考えて安易に値下げを提案してくることがあるのです。このように、囲い込みをされてしまうと「早く売れない」「高く売れない」ことにつながり、売主が望まない結果になってしまう可能性があるでしょう。

囲い込みにより紹介を制限された他社は、囲い込みを行っている会社に顧客が直接問い合わせないようにあえて物件を紹介しなかったり、さまざまな理由を並べて物件から遠ざけたりすることが考えられます。買い手の条件に合う物件を紹介してもらえないことから、物件の囲い込みは買主側にもデメリットがあるといえるでしょう。

不動産売却で囲い込みにあわないための対策

ここまで解説したように、不動産仲介会社により売却を依頼した物件を「囲い込み」されてしまうと、売主が大きな損失を被ってしまう可能性があります。ここでは不動産を売却する際に囲い込みにあわないための対策について解説するので、不動産売却を検討している人はぜひ参考にしてみてください。

囲い込みをする不動産仲介会社と付き合わない

不動産売却をする場合は、そもそも囲い込みをするような不動産仲介会社と関わりを持たないようにすることが大切です。「他社からの紹介も積極的に受けてほしい」「両手取引にこだわらず買い手を見つけてもらえませんか?」「囲い込みはしないでください」と念を押すことで、売主側が囲い込みについて知っていることをアピールできます。囲い込みをしないように伝えることが、抑止力の強化につながるでしょう。

また、不動産仲介会社の中には、媒介契約につなげるためにあえて高い査定価格を提示しているところもあります。特に不動産一括査定サイトは最初から複数社を競合させる仕組みであるため、残念ながら自社の利益のみを考えて高額な査定金額を提示しているケースがあるのです。自社の利益を追求しすぎる会社の場合、両手取引にこだわって囲い込みをする可能性が考えられます。不動産仲介会社を選ぶ際には、査定金額のみで判断しないよう十分注意しましょう。査定金額に疑問を感じる場合は、その金額となった根拠も確認してみてください。

その他、「自社に買いたいお客様がたくさんいるので心配しないでください」など不動産仲介会社の言葉を鵜呑みにしすぎないことも大切です。後々のトラブルを防ぐために、大事なことは口頭でのやり取りを避けて文章として記録に残しておくことをおすすめします。

囲い込みされているのではないか不安な場合

専任媒介契約もしくは専属専任媒介契約を締結している場合は、レインズへの登録義務があります。売却を依頼した不動産仲介会社からレインズの登録証明書を受け取り、記載されたIDとパスワードを利用して登録内容を確認してみましょう。

レインズに登録されていても「既に申し込みが入っています」「担当者が不在です」等と伝えて他社からの問い合わせをすべて断っているケースも考えられます。囲い込みをされているのではないか不安な場合は、仲介会社を装って物件の問い合わせをするのも1つの手です。囲い込みをしていなければ、他社からの問い合わせにもきちんと対応するでしょう。

不動産を売却する際は囲い込みにあわないよう注意しよう

今回解説したように、囲い込みが行われる背景には売上を優先して両手取引に固執している不動産仲介会社の存在があります。囲い込みは、売主・買主どちらにとってもデメリットが大きいことです。不動産を売却する場合は、他社にも物件情報を公開して売主の納得する価格で早期成約を目指す、信頼できる不動産仲介会社に依頼しましょう。

不動産を売却するときに注意する点 その2 ―売却時のトラブルを防ごう―